脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)

脳の病気が疑われる症状

  • 片方の手足に力が入らない
  • 手足に痺れがある
  • 呂律がまわらない
  • 表情がゆがむ(左右差がある)
  • めまい、嘔吐
  • 視野が狭くなる

手足に力が入らない(麻痺)

打撲や骨折がないにも関わらず、突然「手足に力が入らなくなった」場合、それは神経系、特に脳の疾患を疑うサインです。
随伴する感覚の障害や言葉の問題があれば、さらにその確率は高くなります。

原因

身体の運動機能は錐体路と呼ばれる神経伝導路によってコントロールされています。錐体路は前頭葉にある運動野(運動の指令中枢)に始まり、脳幹を経て対側へ移行(錐体交叉)後、脊髄へと伝達される神経経路です。

そして脊髄から末梢神経に乗り換え筋肉へ指令を伝えます。この経路に問題が生じると「麻痺」を生じますが、障害される部位によって麻痺のタイプは異なります。脳の病気では「片麻痺:片方の手足に力が入らない」、「単麻痺:片方の手または足だけに力が入らない」を来たすことがほとんどです。

*単麻痺にみえても実は片麻痺で、手と足で麻痺の程度が異なるだけの場合が少なくありません。

代表的な脳の病気

麻痺がどの範囲にあって、どれくらいの速さで症状が出現し進行しているのかでおおよその疾患を検討することができます。

  • 片麻痺:半身(右または左半身)の麻痺
  • 単麻痺:片手または片足だけの麻痺
  • 対麻痺:両足の麻痺
  • 四肢麻痺:手足全体の麻痺
  • 急性:急に症状が出現する
  • 慢性:徐々に症状が出現する
代表的な脳の病気

脳卒中について

脳卒中について

脳出血・脳梗塞・クモ膜下出血の
模式図

脳血管障害は脳卒中・高血圧性脳症・脳血管性認知症の、脳卒中は脳梗塞(脳の血管がつまる)・脳出血・くも膜下出血の総称です。
ちなみに、脳卒中の語源は、卒然として(急に)邪風に中るということです。急に手足が動かなくなったり、喋りにくくなったりします。

2021年の厚生労働省の人口動態統計によれば、脳卒中は日本人の死因第4位、寝たきりの原因第1位の病気です。
病型別にみてみると、脳梗塞が最多の74%を占め、脳出血(19.5%)、くも膜下出血(6.5%)と続きます。一方、沖縄では脳梗塞が最多であることに変わりはありませんが、比率が大きく異なり脳梗塞57%、脳出血34%と脳出血の比率がとても高く、特に40〜60歳代の男性で目立ちます。

これには食生活の変化(脂質摂取増加や魚類摂取低下)や運動不足(メタボリックシンドローム、肥満)、飲酒量が大きく関与しており、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の管理が不十分であることを示唆しています。
健康診断をしっかり受け、上述した生活習慣病を指摘された場合には生活習慣の改善に努めながら治療し、脳卒中の発症や再発を予防していきましょう。

脳卒中の病型分類と模式図

脳卒中の病型分類と模式図

脳卒中について

脳出血

脳の血管が破れて出血する病気です。出血する部位によって症状は様々ですが、出血による脳の直接損傷や周囲脳の圧迫によって、脳梗塞と比べ発症時の意識障害が強く、退院時の自立度も低くなります。

脳出血の大きな原因は高血圧です。よって予防的見地から高血圧の予防や降圧薬(血圧を下げる薬)による治療がとても重要です。
また、他の原因として、もやもや病や脳動静脈奇形・脳動静脈瘻・海綿状血管腫などの疾患は背景に存在することがあるので、そのような場合は原因疾患の治療が必要になります。

脳出血の治療

脳出血の治療は以下の2つを目的に行われ、出血部位や大きさ、全身状態に応じて治療方法が選択されます。

  1. 出血の拡大を防ぎ脳へのダメージを最小限にする
  2. 命に関わる緊急の状態に対応する救命

内科的治療

多くの場合、まず内科的治療を行います。

(1)血圧管理

血圧が高いと出血が拡大する可能性があるため、点滴や内服で慎重に血圧コントロールします。

(2)止血、再出血予防と脳浮腫の管理

必要に応じて止血薬を使用し出血拡大を防ぎながら、出血周囲の腫れ(脳浮腫)を抑えるために点滴治療を行います。

外科的治療(手術)

出血量が多い場合や、症状が進行性に悪化している場合には手術を検討します。この様な状態は命に危険が迫っている状態であり、外科的治療は「救命」を主目的とした治療になります。治療方法には以下の方法が挙げられます。

外科的治療(手術)
(1)開頭血腫除去術

開頭(頭を開く)して血腫(血の塊)を顕微鏡下に確認し直接取り除く方法です。

(2)神経内視鏡下血腫除去術

穿頭(500円玉程度の小孔)して、神経内視鏡下にモニターで確認し血腫を吸引除去する方法です。
体への負担が少ないのが特徴です。

神経内視鏡下血腫除去術
神経内視鏡下血腫除去術
(3)脳室ドレナージ術

出血が脳室に及び、水頭症を併発している場合に行います。脳脊髄液や血腫を、管を介して外へ排出し脳の圧を下げることを目的としています。

リハビリテーション

上述した内科的治療や外科的治療(手術)は、それ自体に機能を回復させる効果はありません。脳出血発症によって失われた機能に対しては、早期からのリハビリテーションが重要です。

  • 手足の麻痺の回復
  • 言語障害の改善
  • 日常生活動作の再獲得

脳梗塞

脳血管の狭窄や閉塞、心臓内にできた血栓や頚動脈狭窄部からの塞栓物質によって、脳血流が阻害され、脳細胞に酸素や栄養が届かなくなる疾患です。

病型ごとに発症機序や臨床症候が異なり、「ラクナ梗塞」・「アテローム血栓性脳梗塞」・「心原性脳塞栓症」・「その他の脳梗塞」の4つに病型分類されます。

脳梗塞

脳梗塞の治療

各脳梗塞病型に対する治療内容を下の表にまとめます。

再開通療法

脳梗塞の超急性期では、不可逆的損傷を負った虚血中心部(コア)の周囲に、機能を回復の可能性をもったペナンブラと呼ばれる部位が存在します。
血栓溶解療や機械的血栓回収療法(血管内治療)といった再開通療法によって血栓を溶解または除去することによって、途絶した脳血流を早期に再開させる必要があります。

抗血栓療法

脳梗塞の治療

抗血栓薬には血小板血栓に有効な抗血小板薬と、フィブリン血栓の形成を抑制する抗凝固薬の2種類があります。抗血小板薬と抗凝固薬を併用すると出血性合併症のリスクが著しく高くなるので注意が必要です。

補足:血栓について

プラーク形成と血小板血栓

プラーク形成と血小板血栓

動脈硬化とは「粥状動脈硬化」と同義で、生活習慣病の高血圧や糖尿病などによって血管の内膜(内皮細胞:血管の内側で血流と接する部分)が傷つけられると、内膜が厚くなり、内膜の中にコレステロールが蓄積、沈着した状態になります。

この病変を「粥腫(プラーク)」といいますが、脆いプラークは容易に破綻し、その結果できた「血のかたまり(血栓)」が原因で動脈が閉塞し脳梗塞を起こします。

一方、不整脈の一種である心房細動では、心臓の拍動が上手くいっていないために血液の流れが滞ってしまい、結果としてフィブリン血栓を生成してしまいます。

クモ膜下出血

クモ膜下出血
クモ膜下出血

クモ膜下腔に出血を来す疾患で、「突発する激しい頭痛(雷鳴頭痛)と嘔吐」を典型的症状とします。
脳卒中の約3%を占め、およそ10万人に15〜28例/年の頻度で発生すると報告されており(沖縄の人口は約146万人なので約300人/年が発症する計算)、最も多い原因は脳動脈瘤破裂(約85%)ですが、その他にも脳動静脈奇形や脳動脈解離などが挙げられます。

発症した場合、総死亡率は25〜53%と高く永続的な異常神経症状なく復帰できるのは全体の約1/3程度と報告されています。

クモ膜下出血に前兆はあるのか?

約20%の症例ではくも膜下出血発症前に、少量出血(マイナーリーク)を起こすことで前兆を認める場合があります。

  • 警告頭痛:片頭痛様ズキズキした激しい頭痛を認めるが数時間でおさまる
  • 動眼神経麻痺:複視(ものが二重に見える)、眼瞼下垂(まぶたが下がる)、瞳孔不同:瞳孔径の左右差など)

“突然の頭痛”を認めた場合、本格的なクモ膜下出血発症が差し迫っている可能性があるため、医療機関を受診する様にしましょう。

未破裂脳動脈瘤

未破裂脳動脈瘤
未破裂脳動脈瘤

脳の動脈が嚢状・紡錘状に拡大したものを脳動脈瘤といいます。
動脈壁が拡張したものを真性、動脈壁内の血腫によって動脈壁が剥離され動脈拡大を来したものを解離性と呼びます。
脳動脈瘤はMR検査(MRA)で発見される機会が多く、人口の約3%に認められる頻度の高い病態です。

破裂した場合、クモ膜下出血を来たしてしまうので、未破裂脳動脈瘤が発見された場合は、自然歴を鑑みて「治療すべきなのか」、「治療を受ける場合どの様な選択肢が適しているのか」をしっかり考える必要があります。

破裂リスクをどう評価するか?

2012年、日本における未破裂脳動脈瘤の自然歴についての調査結果が報告されました
(Then Natural Course of Unruptured Cerebral Aneurysms in a Japanese Cohort. UCAS Japan)。

破裂リスクをどう評価するか?

脳動脈瘤の好発部位

破裂リスクは「瘤の大きさ」、「部位」、「形状」に影響されます。

  • 大きな動脈瘤ほど破裂危険性が高い
  • 前交通動脈瘤、内頚動脈-後交通動脈分岐部瘤は中大脳動脈瘤より破裂率が高い
  • 形状が不整(daughter sac)な場合、脳動脈瘤は破裂率が1.6倍になる

未破裂脳動脈瘤の破裂率は年0.95%と決して高くありませんが、上記リスクを踏まえた上で、「UCAS破裂予測スコア:3年間破裂リスク」、「ELAPSSスコア:3年間の動脈瘤拡大率」、「生涯破裂率」を用いて治療是非を決定することが大切です。

脳動脈瘤の好発部位
脳動脈瘤の好発部位
脳動脈瘤の好発部位
脳動脈瘤の好発部位
  • UCAS破裂予測スコア:3年間破裂リスク
  • ELAPSSスコア:3年間の動脈瘤拡大率

脳動脈瘤の治療

脳動脈瘤に対する治療方法には開頭手術(脳動脈瘤頚部クリッピング術)と、血管内治療(脳動脈瘤コイル塞栓術)の2つが挙げられます。

開頭手術:脳動脈瘤頚部クリッピング術

開頭し、直接脳血管と動脈瘤を視認して、動脈瘤の根本(頚部)を専用のクリップで挟み瘤内部への血流を遮断する方法です。動脈瘤を処置と同時に確実に閉鎖し、長期的に安定した治療効果が期待できる(再発が少ない)ことが特徴です。

一方、注意点としては、開頭が必要であるため体への負担が大きく、脳実質や神経を露出し手術操作が加わることによって神経障害や痙攣発作などが起こり得ることが挙げられます。

血管内治療:脳動脈瘤コイル塞栓術

足の付け根や腕の血管から細径で柔らかい管(カテーテル)を挿入し、動脈瘤の中にプラチナを主成分とするコイルを詰めて、瘤内への血流を止める方法です。開頭手術と比較して体への負担が少なく、高齢の方や全身状態がやや不安定な方へも適応しやすいことが特徴です。

一方、動脈瘤の形状や周囲正常血管との血流状態によって再発(再開通)する可能性があること、ステント(コイルを安定させるために留置する医療機器)を使用する場合は、一定期間、抗血小板薬の内服が必要であることが挙げられます。

どちらの治療を選択するか

治療方法は脳動脈瘤の大きさ・形状・部位や、患者さんの全身状態、安全性と合併症/再発リスクを総合的に判断して決定されます。

開頭手術と血管内治療はどちらが優れているというものではなく、治療を受ける方の意向を踏まえながら“より最適な”方法について執刀医としっかり話し合うことが大切です。

どちらの治療を選択するか

開頭手術:
脳動脈瘤頚部クリッピング術

血管内治療:脳動脈瘤コイル塞栓術

血管内治療:
脳動脈瘤コイル塞栓術

脳卒中の再発予防について

脳卒中は、一度発症すると再発のリスクが高い疾患です。適切な治療と生活習慣よって予防することが大切です。

当院では、脳の専門的なフォローに加えて、生活習慣病の管理も含めた総合的な再発予防を行っています。

再発予防のポイント

(1)血圧管理

高血圧は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のいずれにも関係する最大の危険因子です。

  • 高血圧管理、治療ガイドライン2025では、脳卒中の既往がある高血圧患者の降圧目標値として130/80mmHg未満を推奨しています。
  • 毎日の血圧測定と、自己判断で薬を中断しないことが重要です。

(2)生活習慣の改善

  • 塩分を控える:目安は1日6g未満です。
  • 適度な運動:有酸素運動(ウォーキングなど)を1日20〜30分
  • 体重管理:肥満の改善は血圧や糖代謝の改善につながります。
  • 禁煙、節酒:喫煙や過度な飲酒は動脈硬化の進展から脳卒中リスクを高めます。

(3)生活習慣病の管理

脳卒中の背景には、生活習慣病をはじめとした様々な疾患が関わっています。

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症
  • 心房細動(不整脈)
  • 慢性腎臓病

これらの疾患を適切に治療することが再発予防の鍵となります。

当院では、以下の内容を一貫して行っています。
脳だけでなく全身を診ることで再発率を少しでも低くするよう努めています。

  • 高血圧
  • 画像検査(MRI、MRA)による脳卒中後のフォロー
  • 定期的な血液検査による生活習慣病の把握
  • 血圧管理と内服調整、脂質異常症や糖尿病の治療
  • 抗血栓薬の管理:抗血小板薬の管理と抗凝固薬の調整

生活習慣病と脳の病気を関連づけて総合的に診ています

高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒習慣などは、内科的な問題としてだけでなく、脳の病気と深く関わっています。

当院では、こうした生活習慣病を単独で見るのではなく、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害とのつながりを意識しながら、総合的に診療を行っています。
たとえば、「まだ脳卒中になったことはないけれど、血圧が高い」「しびれが一時的に出たことがある」「すぐ治ったから様子を見ている」といった場合でも、背景に見逃してはいけないサインが隠れていることがあります。一過性の症状は軽く考えられがちですが、実は重要な前触れである可能性もあります。

当院では、そのような症状や既往歴、生活背景を丁寧に確認しながら、必要に応じてMRIなどの検査にもつなげていきます。単に数値だけを見るのではなく、「この患者さんに将来どのようなリスクがあるのか」「今のうちに何をしておくべきか」を見据えた診療を行っている点が当院の強みです。

内科的な管理と脳神経領域の視点をあわせ持ちながら、患者さんの健康を長い目で支えていきます。

“治療”だけでなく“予防”にも力を入れています

脳梗塞や脳出血といった脳卒中は、発症してからの対応だけでなく、発症を防ぐための取り組み、そして再発を防ぐための管理が非常に重要です。

当院では、これまで脳卒中を数多く診てきた経験を活かし、予防の段階からしっかり関わることを重視しています。
高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病は、普段の生活では大きな自覚症状が出にくいため、つい治療が後回しになりがちです。しかし、症状がないまま血管への負担が積み重なり、ある日突然、脳卒中という重大な病気につながることがあります。

当院では、そうしたまだ起きていない危険にも目を向け、必要な診察や検査を通して、早い段階で介入することを大切にしています。さらに、すでに脳卒中を経験された方に対しては、再発予防の観点から治療内容や生活習慣を見直し、再び大きな発作を起こさないためのサポートを行います。

Photo by Toshihisa Ishil
© がなは頭痛脳神経クリニック